NTTデータ、買収矢先のトランプショック
証券部 花田幸典
2016/11/28 5:30 日経
米大統領選でのドナルド・トランプ氏の劇的な勝利は、NTTデータにはさぞショックだっただろう。約30億ドル(約3400億円)を投じた大型買収の手続きをほぼ完了したのが今月3日。そのわずか6日後に、事業戦略を狂わせかねない事態になったのだから。トランプ米次期大統領は医療保険制度改革法(オバマケア)の見直しを訴えており、米国で病院や在宅介護といったヘルスケア関連業界向けのビジネス拡大をもくろむ同社の戦略にも暗雲が垂れ込めてしまった。
「オバマケアなどで米国のヘルスケア市場は拡大していく」。NTTデータの岩本敏男社長は4日に開いた2016年4~9月期の決算会見で、米デル・テクノロジーズのIT(情報技術)サービス部門買収について、こう力説した。
同部門は北米の医療機関向けITサービスで市場シェアトップ。米病院チェーンなどの優良顧客を多く持つ。米国では電子カルテの導入拡大や遠隔地医療を可能にするアプリの普及などで、医療機関のシステム需要は急増している。オバマ政権が国民皆保険を目指して導入したオバマケアも、確実に追い風になっていた。
買収金額の約3400億円は「やや割高」(国内証券)との指摘はあるものの、ヘルスケア市場の高い成長性を織り込んでのこと。買収の結果、NTTデータの海外売上高比率は約4割に達し、連結売上高2兆円超としてきた長期目標にも大きく近づける。北米事業でヘルスケア業界向けビジネスが占める割合は買収前の13%から33%に高まった。
保険料の高騰を招いたとし、オバマケアの廃止を訴えてきたトランプ氏の勝利は、NTTデータには青天のへきれき。「オバマケアは完全な失敗」「オバマケアは米国とビジネスを破壊している」といった過激発言は選挙後には聞かれなくなり、制度修正にとどめる可能性も示唆している。だが、米ヘルスケア市場に何らかの影響が出るのは間違いなさそうだ。
株式市場はもともと、今回の買収劇を必ずしも歓迎しているわけではなかった。3月に買収検討が明らかになってから米大統領選直前まで、日経平均株価が2%上昇したのに対しNTTデータ株の騰落率は0%だった。買収によって営業利益は約200億円上乗せになる計算だが、のれん代などの償却も約200億円増える。少なくても短期的には業績への貢献が見込めないのがその要因だ。
そこに「トランプリスク」が加わり、風当たりはさらに強まった。大統領選直前から25日までのNTTデータ株の上昇率はわずか2%。日経平均が同期間に7%上昇したことを鑑みれば、芳しい評価とは言い難い。市場は「新政権の政策を含め、デルIT部門買収の成果を見定めている」(野村証券の田中誓アナリスト)という。
もっとも、悪いことばかりでもないかもしれない。トランプ次期大統領は財政拡大による景気刺激策を掲げている。景気拡大で企業のIT投資が拡大すれば、NTTデータは少なからず恩恵を受けるからだ。今回の買収によって、年間売上高が5千万ドル(約57億円)を超える米国内の顧客数は5社から16社に増えた。米国のIT投資が拡大した場合の受け皿が整ったともいえる。
トランプ氏の政策の具体像が見えにくく、今のところ具体的な影響は出ていないという。トランプ次期大統領は吉か凶か。それを決めるのは追い風でも逆風でもなく、NTTデータの自助努力なのかもしれない。
証券部 花田幸典
2016/11/28 5:30 日経
米大統領選でのドナルド・トランプ氏の劇的な勝利は、NTTデータにはさぞショックだっただろう。約30億ドル(約3400億円)を投じた大型買収の手続きをほぼ完了したのが今月3日。そのわずか6日後に、事業戦略を狂わせかねない事態になったのだから。トランプ米次期大統領は医療保険制度改革法(オバマケア)の見直しを訴えており、米国で病院や在宅介護といったヘルスケア関連業界向けのビジネス拡大をもくろむ同社の戦略にも暗雲が垂れ込めてしまった。
「オバマケアなどで米国のヘルスケア市場は拡大していく」。NTTデータの岩本敏男社長は4日に開いた2016年4~9月期の決算会見で、米デル・テクノロジーズのIT(情報技術)サービス部門買収について、こう力説した。
同部門は北米の医療機関向けITサービスで市場シェアトップ。米病院チェーンなどの優良顧客を多く持つ。米国では電子カルテの導入拡大や遠隔地医療を可能にするアプリの普及などで、医療機関のシステム需要は急増している。オバマ政権が国民皆保険を目指して導入したオバマケアも、確実に追い風になっていた。
買収金額の約3400億円は「やや割高」(国内証券)との指摘はあるものの、ヘルスケア市場の高い成長性を織り込んでのこと。買収の結果、NTTデータの海外売上高比率は約4割に達し、連結売上高2兆円超としてきた長期目標にも大きく近づける。北米事業でヘルスケア業界向けビジネスが占める割合は買収前の13%から33%に高まった。
保険料の高騰を招いたとし、オバマケアの廃止を訴えてきたトランプ氏の勝利は、NTTデータには青天のへきれき。「オバマケアは完全な失敗」「オバマケアは米国とビジネスを破壊している」といった過激発言は選挙後には聞かれなくなり、制度修正にとどめる可能性も示唆している。だが、米ヘルスケア市場に何らかの影響が出るのは間違いなさそうだ。
株式市場はもともと、今回の買収劇を必ずしも歓迎しているわけではなかった。3月に買収検討が明らかになってから米大統領選直前まで、日経平均株価が2%上昇したのに対しNTTデータ株の騰落率は0%だった。買収によって営業利益は約200億円上乗せになる計算だが、のれん代などの償却も約200億円増える。少なくても短期的には業績への貢献が見込めないのがその要因だ。
そこに「トランプリスク」が加わり、風当たりはさらに強まった。大統領選直前から25日までのNTTデータ株の上昇率はわずか2%。日経平均が同期間に7%上昇したことを鑑みれば、芳しい評価とは言い難い。市場は「新政権の政策を含め、デルIT部門買収の成果を見定めている」(野村証券の田中誓アナリスト)という。
もっとも、悪いことばかりでもないかもしれない。トランプ次期大統領は財政拡大による景気刺激策を掲げている。景気拡大で企業のIT投資が拡大すれば、NTTデータは少なからず恩恵を受けるからだ。今回の買収によって、年間売上高が5千万ドル(約57億円)を超える米国内の顧客数は5社から16社に増えた。米国のIT投資が拡大した場合の受け皿が整ったともいえる。
トランプ氏の政策の具体像が見えにくく、今のところ具体的な影響は出ていないという。トランプ次期大統領は吉か凶か。それを決めるのは追い風でも逆風でもなく、NTTデータの自助努力なのかもしれない。